これは、17年ほど前、僕が23歳ぐらいの時の話です。そのころ、いろいろ考えて、林業の勉強をしようと思い、勤めていた会社を辞めて、勉強に励んでいた頃です。そして、父と一緒に山主としての活動の第一歩を踏み出したころでもあります。
なぜ、測らなきゃ、と思ったかというと、祖父の時からお世話になっていた山守さんと一緒に山を歩きながらお話ししているうち、「あれ?この方いなくなったらなにも* わからなくなっちゃうじゃん」と思ったことがきっかけです。
*なにも=山の場所、境界線、植えた経緯、植えた時の周りの環境(人の考え、土地の状況、経済状況、水土環境)
なにもわかってないと、山の境界線がわからなくて、どっからどこまでが自分の山なのかわからないし、どんな木があるかわからないから、切り出すのにいくらかかって、いくらで売れるのかもわからない、わかったとしても木を切ったあと、環境にどんな影響出るのか、全く想像がつかず、あーもうほっといたほうが無難かな・・。早いとこ手放したいな・・。なんて気持ちになってしまいます。山主がそんな気持ちになると、手入れされない荒れた山が増えてしまいます。
なのでまず、所有山林の境界を確認する作業(面積を測るとはちょっと違いますが、そんな感じです)と、山林の資産価値を把握するために立木の測定(=立木材積の測定)をしました。
境界の確認は、当時まだご健在だった山守さんとともに昔の話を聞きながら山歩きをして、記録していきました。
立木の測定に関しては、正確な記録がなかったので、材積を測定する機械を造り、それを使って立木を1本1本測り、在庫データベースを作ろう、と考えました。
そうした情報を求めている山主や、森林管理の事業体、伐採業者は多いのではないかとも考えていました。
つくったのはこんな機械です。胸高直径を測定してメモリして、パソコンに転送して表計算ソフトで集計する。GPSで立木1本1本の位置まで記録しようと考えていました。また、入力インターフェースを音声認識にすることも考えていました。こんな形です。”立木測定器ムサシ” という名前を付けました。2001年から2003年ぐらいのころの話です。
こんなふうに測っていきます。測定器の3点を樹幹に当てて胸高直径を測定し、入力ボタンで樹種・樹高等を入力すれば測定終了です。
測ったデータはパソコンに転送し、表計算ソフトで集計できるようにし、パラメータ(斜面の向きや、地味、立地など)をふってシュミレーションできるようにしました。
測定結果をもとにシュミレーションした販売量・価格と、実際の販売量・価格はほぼ整合が取れました。でも、山を見続け、市場価格を把握していた山守さんが、山をパッとみて、「この山は〇〇立米出せるように切らなきゃあかんで!」というのも正解でした。
立木測定器”ムサシ”の開発によって、立木を測定し、デジタルデータで記録することができました(所有山林全てではないです)。
データは価値創出に活用しなきゃ意味がないです。当時も今も森林の価値=木材なので、造材の仕方(切った木を3〜6mに切り分けて行く作業)で値段がだいぶ変わってしまいます。データを元に需要に合わせた造材が可能になるシステムにまでする必要がありましたが、そこまではやり切れませんでした。
2019年の今では、ドローンを飛ばしてレーザーで測ったり、林内の数か所からレーザー測定したデータをPCで演算するシステムなどが開発さ
れていて、とても正確に、負担を少なく効率よく山や木を測れるようになっていると思います。
しかし、効率化の反面、山主としてはもっと大切なことがあって、それは、山を見てくださっている方たちと対話しながら、植えた時の環境と、今の環境との違いを考えながら、ここまで育った木をどうやって使えば地域のためになるのかな?次の世代につなげられるかな?ということを考え、森林の活用方法を生み出すことだと思っています。
そのためには森林業が 経済的に成り立つ仕組みが必要です。
昔は、山の近くで生活されている方たちが”山守さん”として、地域の事を考えながら、森林を管理し、山主と対話をしながら環境を維持してきたのだと思います。今は、森林組合の方たちがその役割を担ってくださっています。
ちなみに、昔から立木測定に使われているのは”ノギス(測定)” ”野帳(記録)” ”チョーク(測定済みを立木に記すため)”です。